『列仙全伝』:研究(一)
第二節 『消揺墟経』と『仙佛奇踪(蹤)』について《9p》

 2-3 月旦堂本『仙佛奇踪』について
 
 前項で紹介した四庫本『仙佛奇踪』の他に月旦堂版武進陶氏重印本と称する『仙佛奇蹤』が二種存在する。両者の構成・内容は同一のものであるので、ここでは、「中国民間信仰資料彙編」に収められるものをもとにその構成や内容を紹介しよう。
 篇首には、出版した台湾学生書局による目録があり、続いて董康の題字による「洪氏仙佛/奇蹤八巻」という原本のものと思われる表紙が影印されており、(注29)その裏頁には「辛未」という年記と「武進陶氏重印」という刊記が見られる。題字を書いた董康の生卒年(一八六七年〜一九四三年)から考えて、この辛未は民国二十(一九三一)年のことと考えられる。
 次に前にも紹介した四庫全書総目提要の一文が置かれ、末尾には先にも挙げた追加解説の一文が附されている。(■頁参照)
 さらに、に了凡道人袁黄による「仙引」が続く。「中国民間信仰資料彙編」の月旦堂本では「仙引」の次にすぐ「仏引」(これはいわゆる「寂光境引」と同じものである。)が来るが、道蔵精華本では「仙引」は仙伝の前、「仏引」は仏伝の前というように内閣文庫本と同じ位置に置かれており、この方が本来の姿であろう。この「仏引」には「眞實居子馮夢禎題」と記されているが、馮夢禎の生卒年は墓誌銘によると一五四六〜一六〇五年であり(注30)、時代的には矛盾しない。この「仏引」中には「傳其神、紀其事、因以寂光境標焉」という文があり、仙伝が「消揺墟」であるのに対して、仏伝の方は本来「寂光境」と称すべきであり、先に述べた四庫本でも、仏伝の方は「寂光境目」と題されていた。
 以下原本「列仙總目・佛祖總目」に続いて老子から始まる仙伝、釋迦牟尼から始まる仏伝が続くのであるが、四庫本と同様に仙伝のあとには「長生詮」一巻、(四庫本にあった「長生詮小引」は存在しない)仏伝のあとには「無生訣」一巻が附されている。(「無生訣小引」も存在しない。)
 道蔵精華本には、編纂責任者とでも言うべき文山遯叟蕭天石なる人物による「影刋洪氏仙佛奇蹤例言」が巻末いる。これも長文に及ぶので、一部の引用にどめることにする。
影刋洪氏仙佛奇蹤例言
 一、本書原爲内府藏本、大明還初道人洪自誠先生撰著。洪氏之菜根談、數百年來、久已家喩戸曉、惟此書獨流傳絶尠。在四庫全書中列入小説家類。此本為月旦堂刻版陶氏重印本、與四庫著録本之卷帙及所撰仙佛傳之人數稍有出入、餘則均同。
 (本書は原、内府藏本爲りて、大明の還初道人・洪自誠先生の撰著なり。洪氏の菜根談は、數百年來、久しく已に家喩戸曉たるも、惟だ此の書より獨傳絶はだ尠なし。四庫全書中に列して小説家類に入る。此の本は月旦堂刻版陶氏重印本爲りて、四庫著録本の卷帙及び撰する所に仙佛傳の人數と稍や出入有り、餘は則ち均同なり。)
 撰者については項をあらためて述べることにしたいが、文中に見える「菜根談」とは、わが国に愛読者の多い『菜根譚』のことである。また四庫本との異同については前項で述べた。
  二、本書共八卷、原分爲三册、此次分装爲上下二册。上四卷屬道家、紀歴代仙眞自老子魏伯陽以下四十六人、毎人均各傳記一繪像一、未(ママ)附長生詮一帙。下四卷屬佛家、紀歴代佛祖聖僧自釋迦牟尼佛達摩祖師以下五十四人、計西土十七人、中華三十七人、亦人各一傳一像、末附無生訣一帙。綜所選刊、人爲千古之絶世奇人、文爲千古之絶世奇文。畫爲曠世難得之名畫、訣爲萬世不傳之眞訣。焚香默讀、神會冥參、歩趨師法、虔誠修持、久久自能脱欲界而逍遥世外、出迷途而超登彼岸。證大自在得大解脱也。
  五 以下略
     中華民國第一庚子季冬月 文山遯叟蕭天石
                   於石屋艸堂
   (本書は共て八卷、原は分かちて三册と爲し、此の次は分装して上下二册と爲す。上四卷は道家に屬し、歴代仙眞老子・魏伯陽自り以下四十六人、人毎に均 しく各々傳記一繪像一を紀し、末(「未」を「末」 に改む。)に長生詮一帙を附す。下四卷は佛家に屬し、歴代の佛祖・聖僧の釋迦牟尼佛・達摩祖師自り以下五十四人、計西土十七人、中華三十七人、亦た人各々一傳一像を紀し、末に無生訣一帙を附す。綜て選刊する所、人は千古の絶世の奇人爲りて、文は千古の絶世の奇文爲り。畫は曠世得難きの名畫爲り、訣は萬世不傳の眞訣爲り。焚香默讀し、神會冥參し、師法を歩趨し、修持を虔誠すれば、久久自ずから能く欲界を脱して世外に逍遥し、迷途を出でて彼岸に超登す。證大自在に大解脱を得るなり。中華民國第一庚子(四十九年・一九六〇年) 季冬の月 文山遯叟蕭天石石屋艸堂に於いて)
 巻数や立伝者の人数などについても前項で述べた通りである。例言の三、四は、二ー一においてすでに紹介済みであるので省略した。(■頁参照)
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