中国の図像を読む
 
 第四節 蓮の花は愛の花《2p》
 
  2、図像に表れた蓮
 
 詩歌に見える愛の花・蓮を図案化して表現したもののひとつが、 二図にあげた「双美舟遊図」という版画作品である。この絵の二人の美女は、蓮の咲き誇る水辺で舟遊びを楽しんでいるようであるが、 この蓮は単に水辺の一風物として描かれているのではない。この絵の場合、描かれる花は百合や菊やまして薔薇などであってはならない。中国の伝統的図像であるなら、ここは是非とも蓮でなくては。
 このパターンの図像は日本人にも古くから好まれており、三図にはその例として正倉院に蔵されている御物に描かれた蓮と鴛鴦の紋様を紹介する。  
 この他、蓮は中国では蓋つきの「盒(he)」という器とともに描かれることもある。(四図)この盒という容器は日本人にはあまり馴染みのないものであるが、中国ではこの「盒」という文字が「合」という文字と同音であるため、 夫婦和合を象徴させる際によく用いられる。この蓮と「盒」を用いた吉祥図の例をもう一つあげよう。(五図)「和合二仙図」の題からもわかるように、一方の手には蓮を、一方には盒を持っている。この仙人は寒山・拾得と呼ばれる唐代の僧侶であるのだが、 民間では結婚を司る神としてあがめられており、この図も夫婦和合を願うものの一つと考えられている。











          
             三図
         『正倉院の文様』より

以上の例から明らかなように、また前にも述べた「蓮」(lian)の音が「憐」と同音であるということも相俟って、 中国では蓮は男女の愛を表す花として、人々に愛好されていることがおわかりいただけたであろう。
 最後に、この蓮が愛の花であるということを端的に表す図を一つ紹介しよう。六図は、中国の男女の愛の場面を描いた秘戯図(部分)の一つである。男女の愛を描いた背景部分には、伝統的手法にのっとり、ちゃんと蓮が描かれているではないか。


  
  六図
象牙と玉石の象嵌圖
『エロティシズムの美術史・中国T』より


二図
「双美舟遊図」『蘇州版画』より






四図
「和合如意」『中国吉祥百図』より





五図
「和合二仙圖」『蘇州版画』より



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