蓮の花は中国でよく用いられる吉祥紋の一つである。数ある植物紋の中でも、おそらくはもっとも図像化されることの多い花であろう。ただ、その際には、蓮がそれ単独で描かれるということは少なく、多くの場合他の紋様と組み合わさって表現される。例えば、前節で取り上げた鯉などがその代表的な例である。 先にも述べたように、ほとんどの日本人は、蓮から仏教的な事物をイメージする。それはまさに、仏陀の座す蓮華座であり、極楽浄土に咲き乱れる清浄なる花のイメージだ。こうした清浄なイメージが付与されるようになった原因は、蓮という花が泥土の内に生ずるにもかかわらず、その花は清らかであるというところからきており、仏典中にもしばしば清浄なるものの譬として用いられる。しかし、蓮は日本や中国でだけもてはやされたわけではなく、遠くエジプトやインダス文明の世界でも人々に愛され、文様化されてきた花なのである。
一図にはそうした古代文明に見られる蓮花文様をあげておいた。(注@) |
一図 『ものと人間の文化史21 蓮』より
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