芽覚め ……または目覚め
春が川辺の小さなしげみに
その優しい光を投げかけた時
小さな命の灯が ともる
眠っていた花が目を覚まし
春の優しい語りかけに
ほほえみながら 答えている
ひと時の休息を終えた小川の水も
春の風を吸いこみ
小さなざわめきを立て
サカナたちを ゆりおこす
そうしてみんな つぶやいている
人間たちは眠ったままかと…
出逢い
あの日コハク色した液体が
グラスの中をぬけ出して
ぼくのまわりに ただよっていた
小さな店の片隅で
グラスを持つ君の手のかぼそさに
ぼくの心はゆれて…
あれが二人の出逢い
あの日裏切られた天使たちが
こらえきれず 泣き出して
ぼくのまわりに 降りそそいだ
暗い雨の街かどで
赤いカサを持つ君の手の白さに
ぼくの心はゆれて
あれが最後の出逢い
永遠と愛と そしてあなたの名前
夕日が雲の向こうへ
帰ってしまったあと
星たちの訪れを待ちながら
寝そべっています
頭の下の一冊の詩集から
言葉たちがぬけ出して
ぐるぐると ぼくの体を
とりまいてしまう
そんな中で
じっと目をとじ つぶやいてみる
永遠と愛と
そして あなたの名前を―
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サヨナラのあとで
こんなふうに
朝日の中を流れるウスモヤに
身をゆだねていたい
きっと天使が迎えにくるから―
君は白いつばさで
空へ飛び上がり
ぼくは一人
君の涙でさめたコーヒーを
飲みほしてしまおう
想い出のしずくが
君に捨てられたまま
朝日の中で
コチコチに凍っている
今 しばらくは
こうして目をとじていよう
サヨナラだなんて切り出せなくて
あなたの足音が
さびしく聞こえるから
今日は黙って 歩いていよう
サヨナラだなんて切り出せなくて
何のために呼び出したのか―
いつだったろうか
同じような日があった
愛しているだなんて切り出せなくて
あの日も黙って 歩いていた
おなじ年のあなたが
今日は ずっと年下に見えて…
あなたの足音が
哀しく泣いているから
今日は 黙って 歩いていよう
今日は 黙って 愛していよう
夢見た日々
光のように舞いまわる
君がそこにいる
いつの間にか
散る花の美しさを
身につけた 君がいる
忘れていた日々を
よみがえさせるかのように
光の中を走りまわる
君が そこにいる
いつのまにか
ぼくを追い越し
大人になった 君がいる
夢見た日々を
よみがえさせるかのように…
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