偽鑑先生の作文講座 その五
五、詩集・愛することをしらないままに(十代の頃のポエムです)《1p》
 
   愛することを知らないまま…
 
雨ばかり続く日を
恨みながら
いつも君の事を想ってた
でも
君を好きだなんて
こんなぼくに言えるはずがなかった
 
雪のとびかう海を
見ながら
いつも夏を待っていた
でも
君をつれ出すことなんて
こんなぼくにできるはずがなかった
 
いつも 海と夕日に
憧れていて
ぼくは語る言葉を知らなかった
いつも青空と白い雲に
憧れていて
ぼくは愛することを知らなかった
 

    家なし小猫
 
ポタポタ 屋根で泣いているのは
家なし小猫か 野良犬か
インクをにじます小さな滴は
家なし小猫の涙なのか…
 
ため息もらしたガラス窓
暗い闇とロウソクの光にはさまれて
ため息もらしたガラス窓
 
何もかもが見えていて
何もかもが霧の中
手さぐりしては 指を切り
泣いているのは
家なし小猫か……
 

    きまぐれ風に誘われて
 
暗いマドから
冴えきった風が顔を出し
白いカーテンと
秘密の話しを ささやいている
 
白いたばこの吐き出す息が
風に誘われ溶けてゆき
あなたの好きなコーヒーを
外の雨が誘い出す
 
遠い街のざわめきと
春の風があなたを迷わせ
きまぐれ雨が
ぼくに さよなら 言わせたのは
いつのことだったのか……
 

    哀しいことといえば
 
登りつづけてきた坂道を
今 くだりはじめている
哀しいことといえば
それくらいのこと

    無の中へ
 
僕は壁に向かって坐っていた
何日も 何日も
ただ 黙ったまま
 
時の流れはなく
空腹感だけが
ぼくの胃をしめつけた
かたくなったパンをかじり
ぼくはまた壁に向かった
 
音はなかった
生きているものもなかった
ただ冷たいカミソリの刃が
息づいていた
ぼくには もう
そのカミソリを手にするだけの
心もなかった
 
ただ しみに汚れてた
白い壁の前で
ぼくの指だけが
ひからびていくのが見えた
 

    秋の中で

 
枯れ葉の一枚一枚に
あなたの名前を書いて
空の遠くへ飛ばしてしまおう
 
秋風は いつも 冷たくて
冬の匂いを運んでくる
公園のベンチにも
もう誰も 見向きもしない
新聞紙だけが
秋風に泣いている
 
車の流れは光の帯にかわり
目の前を過ぎてゆく
人々はえりを立てたまま
家路を急ぎ
想い出と 哀しみと
酒をいっしょに飲み干しては
ため息ばかりが 尾を引いてゆく
 

    夕日の赤
 
雨の 一粒 一粒は
ぼくの涙と同じで
いつになっても降りやまない
 
白い色の画用紙に
クレヨンの画いたお陽様は
息づく朝日の赤じゃなく
消えゆく夕日の赤い色
 
雨の中じゃ夕焼けも見られやしない
せめて赤い花びら 散らさずに
ぼくの夢に出てきておくれ

 
     落星
 
空を飛ぶ鳥が
飛ぶことを忘れた
ぼくを呼んでいる
 
雲に隠れた夜空の
すき間から
こぼれ落ちた星くずも
今 その輝きをなくし
ただ じっと
うずくまっている
 


    
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