偽鑑先生の作文講座 その三
三、算数を作文するぞ 『無残四角形整形物語』―菱形の面積が「対角線×対角線÷2」なのは何故?−)
 
 
  今回は「算数」なのである。「数学」とまでゆかないあたりが、文科系の先生の奥床しさなのである。しかし、よりによって「菱形の面積」なのである。三角形でもなく、台形でもなく、おひな様のひし餅の菱形なのである。その上泣く子も黙まる…というより泣きっ面に蜂の面積の公式で作文するという暴挙に出てしまったのである。おそらく相当のマニア以外は、「そんなもの覚えてるかいな」というか、「ソンナンなんの役にたつねん」という「菱形の面積」なのである。だいたいが役に立つかどうかという問題の立て方は嫌いで、むしろいかに役立てるかを考えるのが人生だと思うのである。そう考えれば、世の中に最初から役に立たないものなど一つもないのである。もっとも役に立たないからこそ面白いという考えかたもあるのだが…。あるいは荘子という中国の大昔の哲学者は「無用の用」という……数学以上にクレームのつきそうな漢文のはなしになるのでヤメ。
 ややこしい問題を考える時に有効で、かつ肝要なことは何かというと、根本に立ち返るということである。「菱形」ときたからには図形の、特に四角形の定義へかえらなければならない。さらに今回は「面積」とはなんぞやというところまで先祖がえりしてしまうつもりなのである。返る途中で迷子になったりする危険性もあるが、危険を恐れていてはいけない。可愛い子には旅をさせろなのである。
 四角形を画くのである。(図1)どんなに歪んでいてもカドが四つあるから四角形なのである。でもちょっと歪ませすぎかなとも思うので、少し整えるのである。どんな風に整えるかというと、一つだけ向き合った辺を平行にしてみるのである。これくらいならプチ整形なので、ばれないかも知れない。ついでに位置も少し見やすくすると、台形のできあがりなのである。(図2)でもプチ整形といっても、これではバレバレなのである。マア開き直りましょう。
 一重を二重にしたついでに、鼻筋を少しってなもんで、一つといわず、向かい合った辺を両方とも平行にしてみましょう。平行ばかりなので平行四辺形のできあがり。(図3)総とっかえと言うくらい立派な整形なのである。こうなったら顔だけじゃなく、体のほうにも手を入れて、角度もキッパリ90度にしちゃいましょう。誰がなんと言おうと、立派な美人……じゃなかった。長方形なのである。(図4)しかしやるからにはアゴのたるみをとって、胸を大きくして、お尻はキュッとあげて……。えいやぁ。ブラボー、完璧なのである。
 クレオパトラか楊貴妃かというくらい完璧な美人……もとい四角形の中の四角形、正方形なのである。(図5)おやところで菱形は?調子に乗りすぎたのである。だいたい美人は三日で飽きると言うし、ブスは三日で慣れるとも……。とにかくほどほどがいいのである。完璧な正方形を少し崩して愛嬌をもたせるために、角度を90度じゃなくしてみましょう。ただ向かい合った角は同じ大きさのまま。あるいは、せっかく高いお金出して整形したのにっていう、しまり屋の人には、平行四辺形のところまで戻って、向かい合った両辺を同じ長さに(角度は90度にしないで)しましょう。(図6)
 やっとたどり着いたのである。『無残四角形整形物語』一巻の終わりなのである。至極真面目に定義しておくと、「向かい合った両辺が平行で、なおかつ四辺の長さが等しい四角形。向かい合った角度は等しいが、90度ではないもの。(90度だと正方形になっちゃう。もっとも正方形は特殊な菱形という捉え方も可能)」ってことになります。ついでに集合図で表すとこれはもうどこから見ても、まいったかと言うくらい100%数学(算数)なのである。(図7)とても中国文学の先生の仕業とは思えないのである。若い頃学習塾で修行した甲斐があったのである。
 図 7

図 1
 

図 2
 

図 3
 

図 4
 

図 5
 

図 6
 
 乗ってきたところで、ふたつ目のテーマにすっと入るのである。「面積」である。基本の定義をひとつ。一辺が1の正方形を考えよう。単位はつけてないが、1センチでも1メートルでも、なんなら1キロでも、1ミクロンでもかまわない。わかり やすく(実はワードの都合なんだけど)1メートルということにすると、この正方形に囲まれた広さを1uとするのである。(図8)いやだと言われても困るのである。これは定義だから文句を言ってはいけないのである。議論の前提条件として、これだけはどうかひとつ無条件でうなづいてもらいたい。無条件降伏していただいたと仮定して、自民党圧倒的大勝利のように、強引に話を進めるのである。
図 8
 ではよこ3m、たて2mの長方形の面積はいくらでしょう。なんて問題はバカにしすぎですね。でも基本ですからしっかりおさえておきましょう。「長方形の面積を求める公式はたて×よこだから、3×2で6。6uです。」ってのは少し違うんですよ。ここが大切です。図を書きましょう。(図9)よこ3m、たて2mの範囲には、さっき定義した1uの広さのタイル(いつのまにタイルになったんだなんて気にしないでおきましょう。)が何枚敷き詰められるでしょう。ひとつ、ふたつと数えてもいいけど、そこまでは先祖返りもできないので、ここは掛け算しましょう。横に三つ、たてに二段だから3×2で6。6枚のタイルで6uです。教育テレビの小学生向き「算数できるかな」みたいですね。
 では応用問題です。四角形ばかり書いていてさすがに飽きちゃったので、最近麺類ばかりだったから、たまにはお寿司でもって、ちょっと贅沢に三角形いきます。たて2m、よこ3mの長方形を半分にして三角形を作りました。(図10)この三角形の面積はいくらでしょう。2m×3mの長方形の半分だから、たて(2)×よこ(3)の半分(÷2)ですね。ところが三角形になったとたん、「たて」が「高さ」に、「よこ」が「底辺」に改名してしまうのです。離婚したから旧姓に戻そうとか、こんなことなら夫婦別姓のままにしとけばよかったとか、そういう問題は今回は関係ありません。とりあえず裁判をすることもなく、円満に改名するのです。という訳で三角形の面積は「底辺×高さ÷2」なのです。めでたし、めでたし。
 お寿司も美味しかったけどやっぱり麺類かなということで、次の日はラーメンなのである。チャーシュー麺くらいは贅沢な台形を書いてみたのである。(図11)本当は等脚台形なんて、スペアリブ入りラーメンくらい贅沢もしてみたかったのだけど、ぐっと我慢をしたのである。代わりにトッピングで補助線も入れてみたので、値段は……じゃなく面積はどうなるでしょう。ちょっと技が必要です。オーバーヘッドキックよろしく、同じ台形をもう一つ用意して、ひっくり返してくっ付けちゃうんです。論より証拠、花より団子、やってみましょう。(図12)さあどうです。

図 9
 

図 10
 

図 11
 図 12
 あっという間に長方形のできあがり。あまったクリームシチューからグラタンができちゃっくらいには驚きです。ところでオーバーヘッドキックの喩えはどうしたんだって。できあがった図、どことなくサッカーゴールに見えません?見えるかどうかは置いといて、面積です。たては1mで変わりませんから、問題はよこです。最初あった台形の下のよこが3m、ひっくり返してくっつけた部分のもともと上にあったよこは2mですね。「下のよこ」とか「上のよこ」とか面倒というか、ややこしいので「上のよこ」を「上底」、「下のよこ」を「下底」と呼びましょう。でも上にあるのに底(そこ)というのも相当むちゃなような気もするけど、「だれが決めたんだ、責任者出てこい」なんて過激なことは言わないのである。世間がいくらやめとけって言ったって、いらんこと言っちゃう総理がいるくらい、時々むちゃを通して平気なのが世の中なのである。社会科ではなく算数なのであぶない話は自己規制。上底(2m)と下底(3m)を足したものが、この場合「よこ」の長さになるわけです。長方形の面積はたて×よこでしたから、このよこの部分に「上底+下底」を代入して……。代わりに入れる。置き換えるということです。普天間基地を辺野古沖に置き換える。靖国神社を新たな戦没者追悼施設に置き換える。イラクのイギリス軍はどこに置き換わるのか……。どうも話が面倒なことになりそうなので、忘れてください。「よこ(上底+下底)×たて」これは台形二つ分だから、忘れずに半分にしましょう。結果、台形の面積は(上底+下底)×高さ÷2。また「たて」が「高さ」に改名してますが、これは三角形のところでやったので、省略。
 次にひかえし強者(つわもの)は平行四辺形なのである。でもあっさりいきます。(図13)左はじ(別に右側でもかまわないけど)の部分を名刀村雨でもってスパッと斬って右側へ持ってきて、名医ブラックジャックに縫合手術してもらうと、これまた長方形のできあがり。たてもよこも変わりないので、面積は「たて×よこ」のまま……。じゃなかった。恒例の「たて」→「高さ」「よこ」→「底辺」の改名を行うので、平行四辺形の面積は「底辺×高さ」。どうです。あっさりしてるでしょ。
図 13
 ただ注意してください。小学生のお子達が必ずやる失敗は、斜めの辺aを高さとしてしまうことです.高さとは上辺から下辺への最短距離、言い方を代えるなら、上辺から下辺への垂線(垂直な線)と定義されているのです。う〜ん、言葉で説明しようとすると難しい。敵対的買収とかポイズンピルを説明するくらい専門的になっちゃうので、この場合はbの方が高さです。と、図示で逃げましょう。良い子は間違わないようにね。刃物を先生や親や友達に向けるような過ちと同じくらいしちゃいけない間違いですよ。平穏な社会生活を送るための最低限の約束事です。「命を大切に」って校長先生の「問題だけはおこさんといて」という本音を隠した朝礼の訓話みたいな話は……忘れてください。
 さぁいよいやってきました。日本シリーズじゃなくて、もういくつ寝るとクリスマスでもなくて、菱形の面積なのである。
 ここまで来るのは長かった。キリンの首くらい、いえいえ、付き合い出だしてファーストキスにたどり着くまでくらい、えっ最近は会ってすぐですって、なんてことでしょう。不潔です。はしたないと思います。待ちわびてこそ恋愛じゃないですか。そんな話ではなく菱形なのである。ヨーロッパの騎士が持つ盾のようにするため補助線も入れてみました。(図14)カッコいいでしょう。十字軍かバラ戦争みたいです。十字軍といえば「十字軍気取りのアメリカ軍がイランで……」って、ヤメヤメ。四分割してできた四つの三角形、みんな大きさは同じです。でも四つは多すぎかな。aとb、cとdをくっつけてふたつにしましょう。(図15)この方がすっきりしてますね。この三角形が上下に一つづつあります。三角形の面積は、さっきやったように「底辺×高さ÷2」ですから、これがふたつという事で「底辺×高さ÷2」×2ということになります。2でわって、2をかけるので帳消しにして、菱形の面積は「底辺×高さ」ということになります。さあここで「底辺」は実は菱形の一方の対角線だったということに気付きましょう。同様に「高さ」の方はもう一方の対角線の半分の長さです。これらのことをまたまた式に代入すると、菱形の面積は「底辺(対角線)×高さ(対角線÷2)」ということになります。これで「菱形の面積=対角線×対角線÷2」のできあがりです。もちろん他にもこの公式の導き方はイロイロあるのだけれど、例えば三角形じゃなくて四角形を作って導く、なんてね。
図 14
 

図 15
 それは各自で考えてみましょう。ヒントの図示だけしておきます。(図16)
   図 16
 それに今回は触れなかったけど円の面積だって「たて×よこ」な のです。これも最後に一応図示だけしておきます。(図17・18)
図 17    図 18
 
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