三教指帰注集の研究
第一章 大谷大学図書館蔵本『三教指帰注集』解説《4p》

 四、注解の形式と特長
 
 「成安注」は『三教指帰』全文を挙げての漢文による割注形式であり、『三教指帰』本文の校勘資料としても価値を有する。その形式は、まず『三教指帰』本文を「■(やま)」を冠して記し、一字分の空白の後、「注云」の二字を冠して注解が加えられている。その注解のほとんどが引書による注釈であり、一部に成安自身の私見を記したと思われる「私云」という記述形式も見られる。また、数か所にわたって、「見上注(上注に見ゆ)」「委見上注(委は上注に見ゆ)」といった例も見られるが、同一語句が再出したすべての場合に用いられているとはいえず、逆に同一語句に対して、全く別の引書をもって注解を加えている例がまま見られる。
 「成安注」の引書に関して、ここではその概略を記すこととする。「成安注」に引用されている書物は、和漢の内・外典に及んでおり、全巻を通じておよそ二百種ほどの書物が引用されている。その内には、多くの佚書・佚文が含まれ、また書目等にその名を見いだすことのできない書物も数多く含まれており、各種の佚書・佚文研究の資料としても「成安注」は重要な価値を有するものである。ただし、そうした引書のすべてが原点からの直接の引用であるとは思われず、その多く、特に引用回数の少ないものについては、何らかの類書からの引用である可能性が高い。引用書籍の詳細は巻末の引書索引に明らかであるが、和漢の比率で見ると、圧倒的に漢籍の占める割合が多く、また内・外典の別を見ると、仏書は五十数種ほどで、そのほとんどが一度だけの引書である。『三教指帰』自体が持つ特性―著者空海の広範な外典・漢籍に対する素養を余すことなく発揮し、数多くの典故を用いた六朝風の美文であるという性格から考えて、外典による注解が多いのは当然のことである。一方、仏書の引用が少ないということは、そのまま仏教関係の語句に対する注解が少ないということを表している。これは成安自身が僧籍に身を置くものであり、またその注解の利用者として想定していた対象もまた僧籍にあるものだということを示している。そのことは、注解中に「見内典(内典に見ゆ)」といった簡略な記述がいくつも見られることからも明らかであろう。

 五、訓点等について
 
 「大谷本」には、全巻を通じて非常に多くの訓点が施されており、国語学的資料としても貴重な存在である。また『三教指帰』の種々の注釈書には多くの訓点が施されており、そうした諸本との比較研究の上からも、「大谷本」は欠くことのできない資料となるであろう。
 「大谷本」に使用されている訓点は、句読点・ヲコト点・声点(含濁点)・音訓合符・人名符・『三教指帰』本文冠頭符・衍字府・返点・送り仮名等である。(個々については翻刻篇を参照)
 ただしヲコト点のほとんどすべてが朱筆による書き入れであり、第五郡点の円堂点である。
(この章終わり)
 
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