『列仙全伝』:研究(一)
第一節 『列仙全伝』について《6p》

 1-6 その他の伝本の構成
 
 (B)の簡体字本は、(A)の玩虎軒本の再編集本とでも呼ぶべきものである。 大きな違いは、李攀龍の序文および汪雲鵬の後序が省略され、伝記本文はすべて簡体字の活字印刷となっている。 また絵像はすべてまとめて巻頭に挙げ、そのあと立伝者の目録および伝記本文が続く。
 巻頭に置かれた出版説明中より、『列仙全伝』に関わる部分のみを参考として次に掲げる。
 
 《列仙全伝》全名為《有象列仙全伝》計九巻、収自遠古至明初伝説中的仙人計四百九十七位、如果算上附見諸仙、則多達五百八十一人。此書初刻于万暦二十八年、署「王世貞輯次、汪雲鵬校梓」、為「玩虎軒本」、前有李攀龍所做序。此書的挿図従絵画技法上看人物造型雖然比較一般、但在表現神仙的怡然自得的神態上也很有特色。而従刻工的技法上看、正是万暦時期版刻芸術的黄金時代的名作。値得注意的是、今故宮図書館蔵有日本活字本《有象列仙全伝》、即据此本翻刻。日本刻本的挿図対玩虎軒原本挿図并未照本翻刻,帯有較明顕的日本風格。
 (C)の民間本は内容はほとんど(A)の玩虎軒本と同一であり、奥付けには「万暦二十八年汪雲鵬刊本影印」と記されている。 巻頭に出版社の作った目録が置かれ、次に原本の「列仙全伝序」があり、それに原本目録が続く。 以下、巻一より巻九までが展開する。絵像は各巻の巻末にそれぞれまとめて配置されている。巻九のあとには「列仙全伝後序」があるが、その他解説、出版説明などは一切ない。
 (D)はもとにした版本などについては一切記載されていない。ただ(A)や(C)と玩虎軒本のであろうと忖度する。 全体の構成は最初に「序」、続いて出版社製作の索引があり、原本目録の次に巻一以下が始まる。この本の特徴的なところは、絵像が後に述べる和刻本と同様に各仙人の伝記本文の近くに挿入されているという点である。 恐らく、この形式が玩虎軒本などの原初の姿をそのまま残しているのだろうと思われる。また、「後序」が省略されているところなども、和刻本と同様である。
 (E)はいわゆる和刻本であり、巻末の刊記には「慶安三歳次庚寅季秋初六日刊行/寺町通三条上町藤田庄右衛門」とある。慶安三年とは西暦一六五〇年であり、中国で出版されてわずか五十年後に既に我が国で刊行され、 しかも現在も各地の図書館に同種の版本がいくつか存することから考えると、やはり我が国でも相当需要があったものと思われる。また未見ではあるが、京都大学人文科学研究所には寛政三(一七九一)年の刊記を持つ和刻本も存在するようである。
 全体の構成は巻頭に序文があり、六葉目から目録が始まり、以下各人の伝記が続くという形式をとっている。また各巻の初めには、「呉郡 王世貞輯次/新都 汪雲鵬校梓」と玩虎軒本と同じく編纂者名が記されている。さらに、各葉の魚尾の下部にはところどころ「玩虎軒」と記されていることから、(A)に挙げた玩虎軒本にもとづいていて作成されたことが知られる。ただ、玩虎軒本との大きな違いは、絵像が巻末にまとめられるのではなく、個別の仙人伝の近くに挿入されているという点である。また、玩虎軒本にあった汪雲鵬自身の後序は省かれている。
 (F)は構成・内容はもとより巻末の刊記に至るまで(E)の和刻本と同様であるが、(E)が九冊本であるのに対し、(F)は日・月・星と題した三冊本となっている。あるいは本来九冊本であったものを三冊本に改装したものであるかもしれない。ただ同種の慶安三年版九巻三冊という体裁を持つ本が、やはり京大人文研に存在するようでもある。
 以上述べた『列仙全伝』には五百八十一人もの仙人の伝記を載せているが、ここから絵像のついた六十余人の伝記だけを取り出したものと思われる書が存在する。それは「続道蔵」にも収載されている洪自誠輯と伝えられる『消揺墟経』である。次章ではこの『消揺墟経』について述べることとする。


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