中国の図像を読む | ||
第六節 黄金バットは中国生まれ?《11p》 | ||
六、蝶に変身する蝙蝠たち―韓国の蝙蝠文― |
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これほど多岐にわたって用いられる蝙蝠文であるからして、その影響は中国のみならず、近隣の諸国へも及んでいる。例えば、韓国においても蝙蝠文は中国同様に吉祥文として用いられていることが韓国各地の文物から知られる。(三十六図) 特に韓国では、家具に用いる飾り金具の模様として盛んに蝙蝠文が用いられているのであるが、韓国の蝙蝠文に関しては、一つ変わった 事実を指摘できる。それは、いつのころからか蝙蝠に触角が生えたという事実である。三十六図Bをご覧いただくとわかるのだが、これは二百年ほど前の飾り金具の例であるが、間違いなく伝統的な蝙蝠文である。特に二枚の羽の下部が抱え込むような形に 湾曲しているのが蝙蝠文を表す一つの特徴といえるであろう。この形体が時代が降るにつれて、三十七図の中下段の ように変化を遂げるのである。これらには明らかに触角と思われるものが頭部よりのびており、その全体の形体は、湾曲した羽の部分を除けば、 どう見ても胡蝶文様に類している。 例えば、三十八図にあげるものは『韓国の家具装飾』という書物に載せる図であるが、どういうわけかいずれもが「蝙蝠状の飾り金具」として紹介されている。筆者の思うところでは、おそらく中国より伝わった当初は先にあげた三十七図の上段のような形体をしていたのだろうが、やがて胡蝶文との混同・類推から触角を生じる という変容をきたし、(三十七図最下段)その形体がさらに胡蝶文に近づき、蝙蝠文独特の翼の形体までが 変化を遂げるようになる。(三十七図中段)そして、最後には胡蝶文となんら区別のつかない状態にまでいたる。 (三十七図上段) こうした変化・変容が起こるのは、この蝙蝠文という存在が韓国・朝鮮の文化にとっては、あくまで外来の文化であり、本来韓国・朝鮮の国民文化の深い部分に根ざしたものではないからであろう。中国人にとっては、「コウモリ……蝙蝠……幸福……吉祥文」というつながりが 理屈ぬきに理解できたのであろうが、単に「コウモリ……吉祥文」という形で、その文化を受容した他国の人々にとっては、 どうしてもコウモリという動物のもつ奇怪な形体とそのイメージが強烈であるために、これを素直に吉祥文として定着させることに抵抗が あったものと思われる。それゆえ韓国では、より形態的に愛好されやすい胡蝶文との同化がはかられたものと考えられる。このことは、韓国のみに限ったことではなく、おそらく日本においても同様であったろうと思われる。そこで、以下では日本における蝙蝠文について検証することにしよう。
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![]() 三 十 六 図 A 韓国の蝙蝠紋 (『韓国文様事典』より) ![]() 三 十 六 図 B 家具の飾り金具 (『韓国の家具装飾』より) ![]() 三 十 七 図 蝙蝠紋の変遷 (『韓国の民俗文化財・芸能と工芸編』より) |
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