中国の図像を読む
第六節 黄金バットは中国生まれ?《9p》
 
  (「五、蝙蝠文あれこれ―応用編―」のつづき)
 
 古銭といえば、二十三図にあげる古銭の形に成型した古墨がある。一面には何かの星座と判然としない図像に まじって蝙蝠が描かれている。また、もう一面の方には「状元及第」という科挙主席合格を示す文字が書き込まれており、宇野雪村氏は 「お祝いに作った墨か、受験生用にお守り墨として作ったものか、どちらかであろう」としている。(注18)いずれにしろ試験及第にまつわる吉祥物であることにはかわりはなく、蝙蝠文の用いられた一例としてユニークなものといえよう。
 同様に二十四図も古墨の意匠として五匹の蝙蝠が用いられている。
 古銭と蝙蝠の応用例を紹介したのに続いて、今度は桃と蝙蝠がともに描かれた「福寿雙全」という文様の具体例を紹介しよう。二十五図にあげる碗がそれであるが、これと同様な桃の木の間を舞い飛ぶ蝙蝠を具象化したものとしては、筆者の手元に蔵する一組の茶器がある。急須の取っ手の部分と蓋のつまみに桃の枝を配し、周りに三匹の蝙蝠を飾り、湯飲みの各々にも蝙蝠文がデザインされている。

二 十 三 図
一品当朝・状元及第(清)
(『古墨の知識と鑑賞』より)

二 十 四 図
万年紅(清)
(『古墨の知識と鑑賞』より)

(↑クリックで図像拡大)
二 十 五 図
粉彩桃樹文碗(清・雍正)
(『中国の陶磁11 清の官窯』より)

二 十 六 図 年画 (『中国伝統年画の世界』より)

 二十六図に示したものは、中国の年画の一種であり、蝙蝠と桃に加えてふくよかな童子や柘榴の実、鶴など 様々な吉祥物が描き込まれている。カラーでお見せできないのが残念なほど大変綺麗な作品である。年画を紹介したついでに、前章でも説明した鍾馗と蝙蝠を描いた年画を二つほどご覧いただこう。(二十七・二十八図
 剣を振りかざし、片足を上げて見栄を切っているかのような鍾馗の頭上に蝙蝠が舞っているのをご覧いただけるだろう。
 この章を締め括る最後に、蝙蝠文が用いられている少し変わった文物について、いくつか紹介しよう。二十九図は、清代を代表する学者の一人、阮元の筆写した無量仏経の一幀であるが、周囲の飾り紋の中に蝙蝠が描かれており、前節で紹介した仏法に耳を傾けて焼け死んだという五百匹の蝙蝠のことを思い出させる。(この章続く)

二 十 九 図 清・阮元書「無仏経」(部分)

二 十 七 図
年画
(『中国伝統年画の世界』より)

二 十 八 図
年画
(『中国伝統年画の世界』より)
前頁《8p》へ戻る    次頁《10p》へ続く

【注釈】
18、『古墨の知識と鑑賞』二玄社