中国の図像を読む
第六節 黄金バットは中国生まれ?《7p》
 
 五、蝙蝠文あれこれ―応用編―
 
 前章では、蝙蝠文の基本パターンについて、そのいくつかを紹介したわけであるが、 こうした基本パターンについては、注にもあげたようないくつかの書物でも解説を付して紹介している。特に野崎誠近氏の著作はたいへんな労作である。 しかしながら、これらの書にはこうした基本パターンの具体的な使用例が示されることはなく、果たしてどれほどの文物にこうした 蝙蝠文が用いられているのかを実見することはできない。そこで、この章では実際の文物の上にどのように蝙蝠文が用いられているか、 その応用例を見ていくことにしたい。
 十五図にあげたものは清の康熙年間(一六六二〜一七二二)の唐草文の皿であるが、 その中央に前章で紹介した五蝠図が用いられている。 このように食器の類に蝙蝠文は用いられることが多く、筆者の手元にも安価なものではあるが、湯飲み茶碗や皿、小鉢など蝙蝠文をあしらったものが いくつかある。一六図Aにあげるものも清代の皿であるが、この皿には瓢箪とともに五匹の蝙蝠が描かれている。 瓢箪という植物も実は重要な象徴性を担った図像の一つである。蝙蝠と瓢箪が結びついている例としては、他にも一六図Bに 挙げるようなものもある。瓢箪の象徴に興味のある方は是非とも研究してみることをお勧めしたい。
十 五 図
瑠璃釉金彩吉祥唐草文皿
(『出光美術館蔵品目録』より)

十 六 図 A
豆彩蝙蝠瓢箪文皿
(『出光美術館蔵品目録』より)

(↑クリックで図像拡大)
十 六 図 B
(『世界の文様3 中国の文様』(小学館)より)
 一七図は、一転して衣裳に描かれた蝙蝠文の例である。これは清の道光年間(一八二一〜一八五〇)に皇后が 着用した普段着の一つであるが、黒みがかった紫色の地の上に団花卉文(丸い花卉文)と波涛文が刺繍されている。その団花卉文の中に蝙蝠が 描かれているのであるが、よくご覧いただくと、そこに描かれている蝙蝠も間違いなく五匹なのである。また同時に三つの桃と富貴を象徴する左右一対の 牡丹の花が描かれている。
 全体を覆う文様は、中国独特の雲気文であるのだが、この雲の文様もしばしば蝙蝠とともに描かれる。もちろん蝙蝠は空中を飛翔する動物であるのだから、 雲気文が描かれるのは当然であるのだが、ここでもまた諧音ということに思いをいたす必要がある。第一節でも述べたことであるが、「雲」という文字は 「運」という文字と音が通じることから、やはり「幸福が運ばれてくる」という意を寓しているものと考えられる。(この章続く)

十 七 図 A
石青色刺繍褂
(『故宮開院七〇周年記念
北京・故宮博物院名宝展図録』より)

十 七 図 B
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