中国の図像を読む | |
第六節 黄金バットは中国生まれ?《6p》 | |
(「四、蝙蝠文あれこれ―基本パターン―」のつづき) |
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3、鍾馗と蝙蝠 前項では、寿老人とともに描かれた蝙蝠の例を紹介したが、同じように蝙蝠とともに描かれる人物の一人に、五月五日、端午の節句につきものの鍾馗さまがいる。 日本には五月五日を子どもの日と称して祝う習いがあるが、中国にはそうした習慣はない。ちなみに日本の「こどもの日」に当る児童節という祝日は、六月一日に あてられている。古来より五月五日という日は悪月とも呼ばれ、この日は邪気を祓うための行事が主であり、そのために邪気祓いに効果があるという菖蒲を用いたり、 鍾馗さまを魔除けの像として戸口に貼ったりしたものなのである。(注16) 鍾馗は、そもそも楊貴妃とのロマンスで知られる唐の玄宗が病気になったとき、その夢に現れて病気の原因である小鬼たちを捕らえて食べたと伝えられる人物で、 それ以来辟邪のシンボルとして用いられてきたのである。(注17) この鍾馗の図の中に蝙蝠が描かれることが多いのであるが、そうした図を三例ほどあげておくことにしよう。十二図に紹介する図像が最も よく用いられるものであり、各地の年画などに頻繁に描かれている。剣を振りかざした鍾馗に天から降ってきた蝙蝠がまとわりつくという図であるが、 辟邪と招福を同時に描いた吉祥図の一つである。 一方、十三図は魔を退ける勇猛な鍾馗のイメージとは少し異なり、剣を振りかざすこともなく、静かに書を読む鍾馗が描かれている珍しい図である。 しかしながら、鍾馗の背後には菖蒲と思われる植物が描かれており、やはり招福と辟邪とを寓意した図であろう。十四図では、剣を振りかざすかわりに、 笛を吹く鍾馗が描かれており、恐らくは笛の音に誘われて蝙蝠が天から降りてくるというのであろう。どちらかと言うと、辟邪よりもより招福の寓意性の強い吉祥図 といえよう。 |
![]() 十 二 図 天中辟邪 (『吉祥図案解題』より) |
![]() 十 三 図 天中辟邪 (『吉祥図案解題』より) |
![]() 十 四 図 鍾馗図 (『吉祥百図』より) |
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【注釈】 16、五月五日端午の節句については詳述する暇はないが、興味のある方は『荊楚歳時記』や中村喬『中国の年中行事』(平凡社選書115)を参考にされたい。 17、『■(こざとへんに亥)餘叢考・三十五』 |