中国の図像を読む
第一節 中国の吉祥図を読む。《1p》

 一、文化の共有
 さっそく一図をご覧いただこう。「松に鶴」。われわれ日本人にもたいへん馴染み深い、おめでた図象…吉祥図像である。 一見何の変哲もない吉祥図の中にも、中国と日本の文化を考える大切な鍵が隠されている。 そこで、まずはこの吉祥図を手がかりに日中両国の文化について考えていくことにしよう。
 今私は、「われわれ日本人にもたいへん馴染み深いおめでた図像」と書き始めたが、この「日本人にも」と言う点にひとつ注意する必要がある。 すなわち、吉祥図案解読の第一の鍵として、中国だとか・日本だとかいう小さな視点ではなく、「アジアの吉祥図」というような見方が必要なのだ。 ここに挙げた「松に鶴」図は「中華吉祥物大図典」(注@)という中国の書籍からの引用であり、まぎれもなく「中国の」吉祥図なのである。 その「中国」の吉祥図を見て、中国人と同様、われわれ日本人もまたおめでたいと感じる。言いかえるなら、この吉祥図に関しては、 中国人も日本人も文化的に共通するものを持っている。
 この伝統文化、あるいは精神文化の共有ということは吉祥図像に限ったことではなく、その使用する文字……漢字をはじめとして、様々な分野で言及され、指摘される。 日本人の伝統文化や生活の背景には、常に中国の影がちらつく。それに対する好悪は人により様々であろうが、しかし、かつて日本が中国をお手本とし、 中国から色々な制度やモノたちを取りこんだという歴史は消しようもない。そして、それらは、意識する・しないにかかわらず、 我々の精神生活を陰に陽に規定している。たとえ西洋的文化生活を生きていると公言してはばからないような現代日本人のなかにも、 拭い去ることのできない東洋の意識が、いわば血肉となって息づいている。その東洋的意識を我々に思い出させるもののひとつが、この吉祥図なのである。
一図 松に鶴

一   図
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【注釈】
@『中華吉祥物大図典』劉秋霖他編(国際文化出版社公司)1993年