≪中 国 仙 人 伝 図 像 解 説

 からつくにのあやしきものどものえときものがたり
                  またの名『有象列仙全伝』解読抄

その七 【馬のお医者さん、はた馬変じて龍となる。】仙人の乗り物(その1)巻一 馬師皇

     
        『列仙全伝・馬師皇』                        『列仙全伝・許栖岩』 


【書き下し】巻一 馬師皇は、黄帝の時の馬を治(ち)す醫(医)なり。馬の形氣・死生の脈を知り、これを理むれば輒(すなわ)ち愈(い)ゆ、後ち龍の下りてこれに向うあり。耳を垂れ口を張る。師皇曰く、「此の龍 病あり、我れ能く理むるを知る。」乃ち其の唇の下に針し、口中に甘草湯をもってこれに飲ます。一旦龍負いて去る。

【語釈】
・甘草湯…甘草は豆科の多年生植物で、茎や根に特殊な甘みがあり、煎じて薬用に供する。
【大意】
 馬師皇は、黄帝の時の馬を治療する医者であった。馬の形氣や死生の脈を理解しており、馬を診させると間違いなく治癒させてしまった。あるとき龍が天より降ってきて馬師皇に向かい、耳を垂れ口を大きく開いてみせたことがあった。師皇が言うには「この龍は具合のよくないところがあり、わたくしがそれを治療できると知ってやってきたのです。」というと、龍の唇の下に針を刺し、口中には甘草湯を注ぎ込んで飲ませたのだった。その後、その龍は、ある日の明け方、馬師皇を背負って去って行ったという。
 

【原文】巻一 馬師皇者、黄帝時治馬醫也、知馬形氣死生之脈、理之輒愈、後有龍下向之、垂耳張口、 師皇曰、此龍有病、知我能理、乃針其唇下、口中以甘草湯飲之、一旦龍負而去。

【余説】仙人伝に良く登場する動物といえば、言うまでもなく龍や鳳凰であるが、身近な生きものでは馬もまた良く姿を見せる。というのも、竜馬という言葉もあるように、そもそも本来馬は龍の変体形でもあるのだ。今回紹介する仙人は、本来馬専門の獣医であった馬師皇という古代の仙人である。巻六に登場する許栖岩という人物の場合は、市場で手に入れた名馬が実は龍の化身で、その背に乗って仙界へ去っていったという。その他、王昌遇・崔子玉・張果などの伝に馬が付属物として登場する。「鯉」なども同様な動物の例として挙げられるが、鯉については次回紹介することとしよう。

【図像】馬師皇の図は、瑞雲の中から姿を現した龍の口元にむかって、今まさに針を打って治療しようとする場面を画いたものである。馬師皇の足元には彼が馬を治す獣医であることを示すように一匹の馬も画かれている。一方、許栖岩の図の方は、川岸に馬を繋ぎとめている様子が画かれている。長い鼻毛のようなものが画かれているが、これは鼻毛ではなく、針と糸で馬を繋ぎとめているのである。興味を持たれた方は是非原文に当たってみることをお奨めする。
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