≪中 国 仙 人 伝 図 像 解 説

 からつくにのあやしきものどものえときものがたり
                  またの名『有象列仙全伝』解読抄

その二 【寿老人?それとも福助?卷六より 荊和璞(ケイカハク)


           『列仙全伝』

【書き下し】
 荊和璞、何許(いずこ)の人なるかを知らず。瀛(えい)海の濱に隠居す。人の心を算するの術を善くす。
≪中略≫
 一日(いちじつ)弟子に謂いて曰く、「旦夕、異客の来たる有り。子等予の爲に具を設けよ。」と。
且つ戒めて曰く、「謹しみて窺伺(うかが)う毋れ。」と。
 翌日果して一人至る。身長五尺にして、闊(ひろ)さ三尺、首その半ばに居る。緋を衣(き)笏を執る。
 髯を鼓し大笑し。吻角耳を侵す。劇談を作(な)すも。人間(じんかん)の語に非らざるもの多し。
≪後略≫

【大意】
 荊和璞という仙人は、どこの人なのか詳しい事はさっぱり伝わっていないが、 瀛(えい)海の浜に隠居していた、人の心を読み取る術(読心術)にすぐれてた仙人だった。
≪中略≫
  ある日その和璞が弟子たちに向って、「明日、きっと異客がやって来るだろうから、もてなしの用意をしなさい。」と告げ、その上「けしてお客さんを覗き見たりしないように」と、言いつけたのだった。
 翌日になると果して一人の客がやって来た。身のたけは五尺(150cm前後)ほどしかなく、体の横幅は三尺(1m)もありそうで、そのうえ頭が体の半分ほどを占めていた。緋色の衣を着て、手には何やら偉そうに笏のようなものをにぎっていた。
 ひげを撫でながら大笑いし、その度に口が耳まで裂けそうだった。大声で何かを語っているようだったが、多くは人間世界の言葉とは違っていてさっぱり理解は出来なかった。

【原文】
  荊和璞、不知何許人。隠居瀛海濱、善算人心術。≪中略≫ 一日謂弟子曰、「旦夕有異客來。子等爲予設具。」 且戒曰、「謹毋窺伺。」翌日果一 人至。身長五尺、闊三尺、首居其半。衣緋執笏、鼓髯大笑。吻角侵耳 作劇談。多非人間。

【語釈】
・瀛海‐大海をいう。大洋。あるいは三神山のひとつの、瀛洲(えいしゅう)か。他のニ山は蓬莱(ほうらい)、方丈(ほうじょう)
・髯 ‐ほほひげ。
・吻角‐くちさき。くちわき。
・劇談‐急いで話す。激しく物言う。

【余説】
 『事玄要言集』「天集」卷一には、この話しと同じような「頭が体の半分」程もある異人の話しが出てくるが、その異人の正体は南極老人星ということになっている。(窪コ忠著『道教の神々』より)
 世界各地に伝わる異人・マレビト伝説の一つである。異界からの訪問者である彼らは、また多く異形の存在として描かれる。さらに彼らは人々に富などの福をもたらす存在として描かれることが多い。今回紹介した異人も同様な福の神なのであろう。

【図像】
 付されている図像は、本伝の荊和璞についての他のエピソード(死んだ友人を生き返らせたという話しも紹介されているのに。)の場面はまったく無視して、彼のもとを訪ねて来た異人の姿を描いている。この寿星(寿老人・南極老人星)のようにも、日本の福助のルーツのようにも見える風変わりな人物は、後半で「此れ、上帝なり。」と、紹介されている。しかし、どう見てもこの体形と笑顔は福の神であろう。

その三へ