≪老子八十一化圖解説≫ 

 大谷大學図書館に所蔵されている太清宮本『老子八十一化図』の各図像及び解説文についての解読・解釈を行なっております。まずは十八化と四十五化の部分だけですが、今後その他の部分についても随時行なってゆく予定でおります。(なお大谷本太清宮本『老子八十一化図』については大谷大学研究年報第53号に詳細を発表しております。また第六房第一室にも同様のものを掲載しておりますので参照して下さい。)        

【第十八化誕聖日】 

・時系列に沿って分析を行なう。
・画面下三分の二を、図のように九分割して分析を行なう。 
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現行本解説
 第十八化 誕聖日
  太上老君以殷十八王陽甲庚申歳        太上老君、殷の十八王陽甲の庚申歳を以て
  真妙玉女晝寝夢呑日精化五色流珠因而有孕   真妙玉女、昼寝ねて夢みらく、日精の五色流珠に化するを呑み、                          因りて孕む有り
  八十一年至二十二王武丁庚辰二月十五日    八十一年して、二十二王武丁の庚辰二月十五日に至りて
  聖母因攀奢樹剖左腋而生           聖母因りて奢(李カ)樹に攀じりて、左腋を剖きて生まる
  又玄中記所載                又た、玄中記の載する所
  李靈飛得脩真之道不仕            李靈飛、脩真の道を得て、仕えず、
  其妻尹氏晝寝夢天開數丈           其の妻尹氏昼寝ねて夢みらく、天開くこと數丈
  見太上乘日精駕九龍而下化五色流珠      太上の日精に乗るを見る、九龍に駕して下りて五色流珠に化す
  呑之有孕                  これを呑みて孕む有り
【注釈】
  ・殷十八王陽甲……殷の十八代の王、甲午〜己亥(1407〜1402)
  ・庚申歳……『至元弁偽録』Aでは「庚寅」に作る。   
  ・真妙玉女……又玄妙玉女
  ・日精……太陽の本性。太陽の精霊。
  ・二十二王武丁……殷の二十二代の王、丁巳〜乙卯(1324〜1266)
  ・庚辰……前1327年。『至元弁偽録』Aでは「庚寅」に作る。    
  ・玄中記……撰人不明、佚文のみ各書に残る。みな神怪物異のことを記していて神異経と似ている。
  ・脩真……道教の真理を修行する。道教の信者となる。
  ・太上……太上老子
【解読】
一、同時異図法の使用……四人の老子が描かれていますが、その四人を探してみましょう。
    回答  D・B・E・H

二、中央D …室内で臥する女性は老子の母親です。名前は何と言うでしょう?
    回答  現行本解説によれば「真妙玉女」資料@によれば「玄妙玉女」

三、老子の誕生における感夢説話……現行本解説「真妙玉女晝寝呑日精化五色流珠因而有孕」
    *釈迦の感夢説話資料Aを参照。
      
 資料@『猶龍傳』巻三、降生年代
      玄妙玉女、至降生凡有二十一事、第一、……化日精、爲五色之珠、此明陽コ成
 資料A『太子瑞應本起經』(支謙訳、大三、四七三中・下)
      菩薩初下、化乘白象、冠日之精、因母晝寝、而示夢焉、從右脇入…… 
    
三、左上F二人の天女が丸い物体を両脇から抱えていますが、これはなんでしょう?また左上から母親へむかって引かれ      ているは何を表しているでしょう?
     回答 日精と呼ばれています。(四十五化の釈迦誕生の場面に描かれている月精と比較・参照)
         解説文 「呑日精化五色流珠」
        天から母親の体内に入り込むことを示す導入線と考えられます。資料B参照。
   
 資料B『猶龍傳』巻三明宗緒
      聖母者、按玄中記云……其妻嘗因晝寝、夢天開數丈、衆仙捧日、出良久、見日漸小、從天而墜、化爲五色
       之珠、大如弾丸、夢中得而呑之…… 

四、左下H 生誕 老子はどこから誕生しているでしょう?
     回答 左脇から生まれてます。
        現行本解説「聖母因攀奢樹、剖左腋而生」(「奢」とあるのは、おそらく「」の誤りでしょう。)
        資料C参照。
      *釈迦は右脇から生まれてます。釈迦の誕生については資料D参照。
    
 資料C『猶龍傳』巻三、降生年代
       第六……聖母之孕、乃剖左腋而生也。……
          第八 降生日、
       ……祥雲■(まだれに陰)庭、四靈翊衛、玉女捧接、聖母攀枝、忽爾降生……
    
 資料D『修行本起經』巻上 菩薩降身品第二(竺大力・康猛祥訳、大三、四六三中・下)
       ……夫人攀樹枝、便從右脇生堕地、

五、左上Gから四人の武人たちが眺めています。この浮雲に乗った四人の人物は誰でしょう?
     回答  おそらく誕生を祝福して訪れた四~の化身かと思われます。
    
 資料E『猶龍傳』巻三、降生年代
     第八降生日、……祥雲■(まだれに陰)庭、四靈翊、衛玉女捧接、聖母攀李枝、忽爾降生……
 資料F『文選』巻三、張衡「東京賦」
       四靈懋而充懐(李善注、)河圖曰、四靈、蒼帝神名霊異仰、赤帝神名赤?怒、黄帝神名含樞紐、白帝對神名白招拒、
        黒帝神名協光紀、今五云四霊、謂除赤餘有四
 資料G『天皇至道太清玉冊』巻八 數目記事章
       四靈名 四靈帝君名諱、青龍帝君孟章、白虎帝君監兵、朱雀帝君霊光、玄武帝君執明
 資料H『華夏諸神』道教巻 一六 青龍、白虎
       道教興起後、把青龍・百虎・朱雀・玄武作爲護衛~、以壯威儀。《抱朴子・雜應》中述老子(太上老君)形象時稱、
       「左有十二青龍、右有二十六白虎、前有二十四朱雀、後有七十二玄武」、著實威風。以後、四象被人格
        化、還給起了名字。青龍叫「孟章~君」、白虎名「監兵~君」、朱雀稱「陵光~君」、玄武爲「執明~君」。
                         馬書田著 雲龍出版 一九九三
 
六、老子の母親は、老子を八十一年間も体内に孕んでいたと記していますが、そのせいで老子はどんな姿で生まれてきたでしょう?
 八十一年懐胎説 現行本解説「八十一年、至二十二王武丁、庚辰二月十五日」 
      回答  白髪頭の老人の姿で生まれてきたので、老子と呼ばれるのだそうです。

 資料I『猶龍傳』巻三、降生年代  
      第二十三、 一、彰聖號者、老君仙胎、寄恵八十一年、誕聖之辰、生而白首、聖母爲之、立號以示世人……老者以生白
       首、故號爲老也


七、右@〜B 産湯に浸かっている場面ですが、頭上から龍がお湯を吹きかけています。さて、この龍は何匹いるでしょう? 
    回答 九頭いるはずです。(理由は、後述)仏伝からの借用と思われます。
 九龍吐水

 資料J『猶龍傳』巻三、降生年代
      第九、降生萬鶴翔空、九龍吐水、以浴聖姿、龍出之地、因成九井、于今在毫州……
 資料K『普曜經』巻八 化舎利弗目連品第二十七、(竺法護訳、大八、五三四上)  
      釋梵四天王、咸来啓受、九龍浴身……

八、右側B・中央E 四人目の老子ですが、このポーズは何を現しているのでしょう。
 
    回答  生まれてすぐ九歩歩き、左手で天を、右手で地を指差し、「天上天下、唯道爲尊」と宣言したとされます。あるいは、
          そばに生えている李の樹を指さして「此れ我が姓なり」と言ったとされています。これらははあきらかに仏伝か
          らの借用です。
九歩生蓮 
   
 資料L『猶龍傳』巻三、降生年代
      第七、降生之時、登行九歩、歩生蓮華、陸地芬芳、  
 資料M『太子瑞應本起經』(支謙訳、大三、四七三中・下)
      化從右脇生堕地、即行七歩、
  
 資料N『猶龍傳』巻三、降生年代
      第十、老君降生之後、左手指天、右手指地、曰天上天下、唯道爲尊
 資料O『猶龍傳』巻三明宗緒
      又按本記云、老君生而能言、指李木曰、此我姓也
 資料P『佛本行經』巻一 降胎品第三(釈宝雲訳、大四、五十七下)
       行七歩、擧手而言、天上天下、唯我爲尊

【余説】
  この書では、という数字がたいへん重要視されています。そもそも表題が「八十一化圖」ですが、これは9×9です。また本章は
   第十八化で、これは9+9です。そして、老子は母の胎内に八十一年間もおり、生まれると九頭の龍が産湯を注ぎ、すぐに九歩
   
あるいたというのです。まさに9は聖数なのです。
   また、その内容は仏伝からの借用というか、剽窃であふれています。

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