はじめに

 私はバイオリンを趣味で弾くことがあり、日頃から弦楽器というものに興味があった。西洋の弦楽器であるバイオリンの歴史は古く、様々な研究者達によって、その真相も明らかになってきた。一方、同じ弦楽器でありながら、どのように発生したかあまりよく知られていないものがある。それは、東洋の弦楽器である胡弓だ。
 中国4000年といわれるほど、長い歴史を持つ国だ。今日までに数多くの楽器が生まれ、それらは時代によって進化してきただろう。中でも現在最も中国で親しまれている弦楽器である胡弓は擦弦楽器である。胡弓の奏法は変わっている。この擦弦楽器がどのようなルートで発生したのだろうか。
 胡弓といっても数多くの種類が存在する。現在中国の代表的な胡弓を紹介すると二胡、中胡、板胡、革胡、高胡、京胡の6種類である。二胡は別名南胡とも呼ばれ、最も代表的な擦弦楽器である。胴は筒で、弦は2本だ。現在二胡は、北京、上海、蘇州が生産地となっている。上海と蘇州の二胡は非常によく似ている。琴筒の形は正六角形であり、音色は柔和で音も小さい。一方北京の二胡は琴筒の形が前方八角形、後方円形をしている。音色は明るく音も大きい。中胡は二胡に比べて低い音を奏でる。構造的には大差はない。板胡は胡琴のグループとは異なる。板胡には琴筒が無く、音箱は椰子で作られている。音域により、高音板胡、中音板胡、低音板胡と分けられる。音は大きい。革胡は低音楽器である。高胡は甲高い音の出る楽器である。京胡の音箱は竹で作られている。独特の音色を持ち、京劇以外には殆んど用いられない。
 更に詳しく漢文資料である『中国楽器図鑑』でも調べてみる。
 二胡は唐、宋代以降の奚琴、攜琴、胡琴の形を変えたものである。
 中胡は1950年代、二胡が基となった楽器である。
 板胡は古代の琴の形によく似ていて、明代末から清代初め以降の楽器で、胡琴が基となった楽器である。高音がでる。
 革胡は1950年代、二胡が基となった楽器である。
 高胡は1920年代、二胡が基となった楽器である。
 京胡は清代以降の京劇に使われた楽器である。
 どれもが拉弦楽器であることが記されている。
 これらの楽器はごく最近に完成されたが、その原型は単純で、遥か昔から存在したに違いない。その原型となった楽器は何であるか、その楽器はいつごろ作られ、どのように進化して現在の胡弓に至ったのだろう
か。