第二章 偽ブランドの実態
ブランド品を持つ女性と中には「まずはルイ・ヴィトンから」という強迫観念的な感情を持っている人がいるのも事実である。実際、表面は傷が付きにくく、型くずれも起こしにくいので、多少ラフに扱っても心配ないので、そういう理由で求めても期待通りの商品であることに間違いはない。
1854年、パリから歴史は始まり、100年以上たった今でも、世界各国、老若男女に愛され続けている。誰もが一目でルイ・ヴィトンとわかるLとV、そして花と星を組み合わせたモチーフは、所有感を否応なくかき立てるのである。
しかし、歴史と伝統、名声のある有名ブランドには、商品の大小にかかわらず、全部ニセモノがあるといっても過言ではない。今や、ニセモノが市場に出回っていることが有名ブランドの証明ともなっている。裏を返せば、ニセモノのあるブランドが真の一流、有名ブランドというわけなのである。
古代ローマ時代において、他人が開発した商標の侵害はコルネリア法により、厳しく罰せられていた。また、ニセモノを作ったり、販売していた人を訴追することができる措置もあった。
16世紀の神聖ローマ帝国では、1544年5月16日に公布されたシャルル5世の厳格な勅令により、他人が考えた商標を真似たり、それに変化を加えたり、剥がした者は、手首を切断されるという重い刑に処せられた。
フランスでは商標、サービスマークに関する法律が1857年6月23日に公布されてから商標侵害は犯罪とした扱われるようになった。今から150年ほども前のことだ。
商標侵害では、他人の商標を完全に真似ることはもちろん、複雑な形態の模様の重要な一部を複製したり、OOの類似品というようにして、他人の商標を無断で使っても完全な模倣とみなされたのである。
また、「CHANEL」を「SHENEL」のように、わざとつづりを一字違えて、消費者を混同される例を「類似商標」として扱った。このほか、商標権者が製造していない商品に、その商標のラベルを貼ったり、商標のラベルの付いた瓶の中身を抜き取り、別の物を入れる場合も「同一商標の不当貼付」または、「別商品の充填」の罪などとして扱ったのである。
このようにヨーロッパでは、他人が開発、発明したものは保護しなくてはならないとの考えが早くから定着していたのである。
しかし、このような法律ができた背景には、すさまじいまでにニセモノが出回っていたという歴史的事実も同時に物語っている。
では、世界の名だたる有名ブランド品のニセモノは、いったいどのくらいあるのだろうか。
ルイ・ヴィトンを例に上げてみると、1978年の建設以来、ルイ・ヴィトン・ジャパン(本社・東京都港区)は、フランスの本社と連携し、偽造品対策には力を入れている。
ニセモノの摘発と知的財産権に関する意識の向上をはかるため、83年には、法務省外部を設けた。そこには押収や摘発にあたる専従スタッフを置いて税関や警察の摘発に協力している。
ルイ・ヴィトンの偽造品にかかわる侵害事犯の摘発状況をみると、83年から97年の15年間に事件数で494件、検挙者1237人、逮捕者543人で12万9495点が押収されている。
しかし、これらは氷山の一角にすぎず、ほかに、海外旅行者が税関を通過する際に発覚し、任意で所有を放棄した数は1017件、4754点に達している。さらに、航空機や船で大量に輸入されたものの、不正商品と発覚し、輸入が差し止められた商品のうち、ルイ・ヴィトンのバッグ類だけでも年間14万点以上に及んでいることがわかっている。
今やルイ・ヴィトンのコピー商品が偽ブランド品の代名詞「定番商品」になっていることは否定できない。
ニセモノを最も数多く製造している国、地域として台湾、勧告、タイ、イタリアが挙げられる。そして、税制面で優遇されるバハマやパナマに本拠を置く会社がイタリアで偽ブランド品を大量発生し、ほかの欧州諸国を経て、大消費国である日本に輸出するケースが多い。また、イタリアでのニセモノ生産量はこの10年間で約11倍に増え、年間10兆リラ(約6000億円)規模に達しているともいわれているのである。
世界中で作られ、販売されているルイ・ヴィトンのバッグからアップルコンピューターまで、ありとあらゆるブランドのニセモノが世界貿易に占める割合が年ごとに高まっているのである。有名ブランドに擦り寄った製品は単にファッションの範囲にとどまらず、航空機や自動車の部品、化学肥料、薬品と広範囲に及んできているのだ。
アフリカのケニアやコンゴでは、農民がニセモノの化学肥料を知らずに使ったため、収穫が半減し食糧危機を招いたこともある。ほかにも、使ったピル(経口避妊薬)がニセモノだったため、望まない子が産まれてしまった例さえ起きている。ニセモノの精神安定剤(トランキライザー)から、香港では、日本の「正露丸」「中将湯」のニセモノが見つかっているのである。
偽ブランド品の取り締まりは、生命や財産を脅かす刑事事件とは違い、枝葉のような販売ルートをさかのぼらなくてはならないため、捜査に時間と手間がかかるうえに実りが少ないのである。何よりも肝心の被害者であるはずの消費者に被害者意識が薄いことが特徴だ。したがって、犯罪捜査の面で優先事案となってないのが現状なのである。
仮にニセモノをつかまされた消費者がいても、「だまされる方が悪い」との考えが支配的で、日常的に犯罪捜査に忙しい警察にとっていまだにやっかいものなのだろう。
国際的にニセモノ事情の悪い国として、台湾、韓国、タイ、香港、イタリア、メキシコ、ブラジル、アルゼンチンなどが挙げられており、欧州会議の報告では、つい最近まで、日本が世界5番目の「模倣国」「コピー製造国」に入れられていた。先進国でニセモノ事情の悪いのは日本とイタリアといわれ、世界的に悪名が高いのである。その日本人の暮らしの中にまで、及んできているニセモノは、もはや世界経済を脅かすばかりでなく、人命をも奪いかねない事態になっていると考えられるのである。このことは十分に認識するべきことだろう。