第三章  中国女性の姿

元来、中国には、「男は仕事、女は家庭」という社会通念があり女性は長い間、社会への参加を阻害されていた。
しかし、 1949年の新中国の誕生 によって、中国の女性は社会生活のあらゆる面でそれまでとはまったく異なる地位を獲得した。
法律が男女平等を保障しそれによって政治、経済、教育、婚姻、家庭における女性の地位は飛躍的に向上した。

 とくに向上した中でも経済面における女性の就業率のアップは、女性を精神面からもささえることになった。
1992年の統計によれば、15歳以上の女性の内、仕事に就いている女性は72.33%にのぼり、女性の労働力は95年時点で労働力全体の44%に達した。女性専門技術者も専門技術者総数の38.6%になる。
「中国の女性は天の半分を支える働きをもつ。」との言い方もある程、女性の存在は高く評価されているのだ。

 少し昔までの「女性=就職における弱者か」という考えは、訂正の必要があると言える。
女性の存在が高く評価されているゆえ、中国の女性は結婚したからといって、仕事を辞め、家庭に入り、専業主婦になるという選択はなかった。就業が「経済上の自立」にとって不可欠であり、精神的支えだからである。
加えて、長期にわたって「低賃金高就業」政策をとってきたので、一般家庭では男女共働きでないと家計を維持できないという事情がある。

 しかし最近、「仕事を続けるか、家庭に入るか」というような論争が、たびたびテレビや雑誌で取り上げられるようになった。
つまり、以前なら考えられなかった「専業主婦」が選択の一つとして浮上してきたのである。
そればかりか、結婚そのものに対しても、結婚は個人の自由であり、幸せなら結婚しなくてもいいし、愛情がなくなったら離婚を選ぶという女性が増えている。今、中国の女性の就業観、結婚観、人生観が大きく変わっている。

 「改革開放」政策によって市場経済化が進むにつれ、多くの外資系企業、合併企業、私有企業が中国へ進出してきた。
それらは、新しい雇用を生み出す一方、従業員募集や職位昇進について、それまで国有企業しかなかった中国の労働現場に新しい視点を持ち込んだ。
能力主義である中国では、仕事の内容が同じであれば男女の差、能力の差に関係なく同一の賃金が支払われた。それが資本主義、能力主義によって崩れ始めたのである。

 中国は法的には男女の平等を保障している。
しかし、実際には人々の意識はいまだ旧弊から抜けきらず、「男尊女卑」の思想が根強い。それゆえ、法の建前とは別に、女性は家庭内でも社会でも冷遇されてきた。
例えば、「女児」 を生んだ母親は家庭から蔑視、虐待され、生まれた女児は遺棄されたり、売買されるということが今でも少なくない。仮に、無事に成長できたとしても、十分な教育を受けさせてもらえないことが多い。

実際、就学している年数も女性の方が短く、女性の就学率は男性に比べて低い。特に農村ほどその傾向は顕著である。つまり、女性の教育レベルが低いので、就職や昇進がしにくい。これはいまや外資系企業だけに限ったことではなく、国有企業が従業員の解雇する際などにも同じことが言える。多くの国有企業が経営不振に陥り解体、再構築を迫られている現在真っ先に解雇の対象となるのは、こうした比較的教育レベルの低い女性労働者である。

そして、彼女達は国有企業ゆえに、教育課程、教育程度を問題視されず、それに安住していたので、教育レベルは旧来のままである。

 こういった人々は、競争が激化してくると真っ先に振るいおとされる。そこへ国有企業に勤めていたというプライドが加わって再就職も難しい。
こうしたことによって、今都市部では大量の女性失業者が生み出されている。
「専業主婦」というのはこうした状況が生み出した産物である。

 一方、市場経済化の波にうまく乗った女性たちもいる。
彼女たちは「独身貴族」と呼ばれ、外資系企業や合併企業(会社)、金融関係などで働き、高い経済力を身につけ、自分らしい生活を実現しようと懸命である。

 彼女たちの価値観は「高収入、高消費」であり、そのため次々と仕事を変える。とくに外資系企業で働く女性には、頻繁を変える女性が多い。
また、女性の初婚年齢が上がり、結婚前に、同棲するカップルや子供を望まない夫婦も現れてくるようになっている。

 このように、結婚、家庭、離婚について、中国の女性、特に若い女性の意識は大きく変わってきている。

 結婚は、生き方のひとつの選択に過ぎないのだ。
以上は、都市部にすむ女性の現状だが、女性の立場は、都市と農村でまったく異なる。
同じ女性でも教育レベルが都市と農村では違うのである。

 全国婦女連合会と国家統計局が、1990年に共同で行った中国初「中国の女性の社会的地位の調査」によれば、農村に住む女性で、まったく学校に通ったことのないという人は、30.9%であり、最も大きな割合を占めている。
ちなみに、都市部にすむ女性では10.2%、農村に住む男性では、11.3%、都市部にすむ男性は2.7%である。

 こうした教育レベルの違いは、政治面における女性の意識と、実際の地位に大きな影響を及ぼしている。
女性の政治参加は中国全体でみれば世界的に高いレベルにある。

 例えば、1998年の中国全国人民代表2979人に占める女性の割り合いは21.8%で650人おり、世界20位である。(日本は同年比較で世界123位)ところが、これも都市部と農村では大きな隔たりがある。
先の「中国女性の社会的地位の調査」の「あなたが人民の代表になったら」というアンケートによれば「必ずうまくいくようにやる」と「上の指示に従い、力を尽くす」と答えたのは都市の女性の方が農村女性より21.4ポイント高く、「能力がないので考えられない」「絶対になりたくない。」と答えた女性では農村の方が12.4ポイント高い。
つまり、政治においても都市部の女性の方が圧倒的に高い関心と自信を持っていることを示している。この違いがどこから出ているのか。
教育レベルの違いに困ることは想像に難しくない。一般的に高い教育を受けている程、社会に対する責任感は強い。

 さらに、農村では子供が重要な労働力とみなされた為、一人っ子政策が徹底せず男児の誕生えお求めて複数の子を産むものが耐えなかった。ゆえに農村は余剰な労働人口を抱え、そこからはじきだされた人たちが大挙して都市へ流れ込んでくる。
その多くは女性で、彼女たちは都会の共働きの家庭でベビーシッターなどをそて働いている。