第三章 日本とディズニーランド

 フランス、ヨーロッパの人々にこれだけの文化的な影響も与えたディズニーランドであったが日本のディズニーランドはどうだったのだろうか。

 東京ディズニーランドは1983年4月、千葉県浦安市にオープンした。東京ディズニーランドはディズニー初の海外進出として注目された。総面積82・6ha(うち46・2haがテーマパーク)総投資額1800億円、経営はオリエンタルランド(三井不動産と京成電鉄が共同出資)によって運営されている。

 東京ディズニーランドはディズニーランド・パリに比べるとすんなりと受け入れられた。それは日本人のアメリカ文化への憧れが強いことが理由になっている。また日本文化はもともと他の文化や異文化を割と簡単に受け入れる文化である。宗教の面で見てもそうだ。聖徳太子の時代から日本人の根底に流れる「習合思想」というものによるところが大きいのではないか。
そもそも日本人は神道の国であった。しかし、聖徳太子の出現で、仏教が取り入れられ、国内には神社と寺院が共存するようになった。現在では、日本人は生まれた時は神社にお宮参りに行く。しかし結婚式はというと多くの人はウェディングドレスを着て教会で神父の前で愛を誓う。そして死んだ時は仏様になるのだ。多様な文化も受け入れる日本ではディズニーランドの文化にフランスのような拒否反応をする人は少なく、人気もすぐに爆発的になったのだった。東京ディズニーランドがこんなににも人気があった理由は単純なものだった。オリエンタルランド社が東京ディズニーランド開園五周年の折に発行したパンフレットによると、ここが好きな理由として多くの訪問客が「美しい」「広さ」をまず挙げている。この回答は裏を返せば日本の観光地がこれまでいかに「美しさ」と「広さ」と無縁であったかという事実を物語る。この日本での東京ディズニーランドの成功はディズニー側への大きな自信を与えることにもなったほどである。

 こうして今現在も人気の東京ディズニーランドであるが、興味深いことにこの完璧なテーマパークにあらゆる文化的背面を感じられるところがある。そしてそれぞれ3つの国にあるディズニーランドは少しずつ違っている。パーク、アトラクション、ショップ、キャスト(ディズニーランドの中で働いているすべての人をこう呼ぶ)で社会的背景、歴史的背景なども知ることができる。

 例えばキャストである。その国々によって少しずつ違っている。その国の社会的背景などが反映されているのだ。

 どういうことかというと、アメリカ・フランス・日本の中で比較すると一番消極的な人が多いのはどこの国だというとやはり日本だろう。しかし、ディズニーランドのキャストの中で一番積極的なのは日本のキャストであろう。ディズニーランドに行ったときに記念に写真を撮ろうとした時に「写しましょうか」とキャストに声をかけられる。実は、キャストがゲスト(ディズニーランドでは客のことをこう呼ぶ)の写真を撮るという行為はちゃんとマニュアルに記載されている。これは「記念写真は家族全員で写っている方が楽しいに決まっている」というウォルトの持論によってできたマニュアルだという。またディズニーランドのモットーである「ゲストとのコミュニケーション」を深めるということにもつながる。近くにいるキャストに写真撮影を頼んでも快く応じてくれる。

もともとは、ウォルトの持論によってできたマニュアルなのだからアメリカで作られた。

 しかし、このマニュアルを生んだ本国アメリカでは、少し事情が違うという。というのも、アメリカ社会は、訴訟や裁判が日常的にされている。キャストが訴訟や裁判の対象になることも十分ありえるのである。そういうわけで、アメリカのパークでは、キャストの方から積極的に「写しましょうか」と声をかけられることはまず無い。しかし、ゲストの方から「写してください」と声をかけられれば、もちろんマニュアルに従ってシャッターを押す。アメリカは、カメラの受け渡しのさいに、カメラが壊れていないか、調子が悪くないか、などを確認することは絶対に忘れない。他人の持ち物を扱う時は、神経質なほど慎重になるのである。サービス国のアメリカはまた、個人の権利意識が非常に強いことが分かる。しかし、それ以上に個人主義を尊重するのがフランスである。東京ディズニーランドのキャストに比べると愛想がないのには驚くという。このような社会的背景や国民性などを反映した結果、日本のキャストが一番積極的なのである。

 次に、ディズニーランドのアトラクションに見られる異国情緒について検討してみよう。東京ディズニーランドには七つのテーマランドがある。各テーマに合わせて何から何まで、例えばゴミ箱一つとっても完璧なのである。アドベンチャーランドにあるブルーバイユー・レストランというところには「提灯飾り」がある。ここでのテーマは古き良きアメリカというようなところを表現しているようであり提灯飾りはここのテーマには合わないのではないか。そもそも、ブルーバイユー・レストランは、19世紀アメリカ大農園主のガーデンパーティーのイメージで造られているレストランである。ではなぜここに提灯飾りがあるのだろうか。それは時代背景を反映していたのである。そして「ジャポニズム」がブームになっていたのである。貴族や富豪の間では、競うように日本の芸術作品などを輸入していたのである。そんな時代背景が忠実に再現されていたのである。

 このようにディズニーランドを調べてみると綿密に再現されていることが分かるのである。しかし、これほどまでに完璧に楽しい空間であるからこそ、危険な面もたくさんあることを忘れてはいけない。ディズニーランドは人々が抱く偏見を大きなものにしてしまうのだ。

 アドベンチャーランドに「カリブの海賊」というアトラクションがある。海賊船のような小さな舟に乗り込むと、流れとともに暗いトンネルにはいっていき、両岸にさまざまな場面や寸劇が人形で展示される。しゃれこうべのそばで大酒をくらう海賊たちや、捕らえた女を追いかけまわす無頼漢。首を切り落とす処刑場、鉄砲の打ち合いなど。これは完全なる偏見である。精巧な人形たちによってこの偏見だらけの焼き直しが我々に植えつけられてしまう。ウェスタンリバー鉄道というアトラクションでは、本来のアメリカ人たる先住民族が現れる。ここでの先住民族の姿、形、扱い方はやはり偏見に満ちている。 ディズニーランドは時代背景を写しだすほどに完璧につくられているパークである。しかし一方では完璧な偏見に満ちた世界もつくられているのだということも忘れてはいけない。