第3章  ルール改正とエンターティンメント性


 これまでバスケットボールについてだけ述べてきたが、ここではバスケットボールと他のスポーツの最近のルール改正における共通点について比較して私の考えを述べようと思う。そこで、多くのスポーツが古くからその土地に有する遊び等を体系化したものがほとんどである中、バスケットボールとバレーボールは必要に迫られて考案されたものであるという点で共通しているので、バレーボールと比較しようと思う。


 バスケットボールのルール改正は第2章で述べてきたが、主な変更点はゲームがより積極的・攻撃的でスピーディーになるように24秒ルール、8秒ルールを採用し、プレイヤーが集中して能力を十分に発揮できるようにしている点や、よりゲームを魅力的にするために4ピリオドからなるクオーター制を採用している点などである。


 バレーボールのルールの主な変更点は、これまでよりシンプルでかつスピーディーな試合展開が期待される25点ラリーポイントシステムが導入された点や、レシーブ専門のプレイヤー、つまりサーブ権なし・前衛ブロックに飛べない・バックアタックを含めスパイクは打てないなど攻撃につながるプレイは一切認められないポジションであるリベロシステムが導入され、ラリーが続くことが増え試合展開が魅力的になった点や、サーブを打った時ネットにかかった場合はアウトだったが相手コート内に入ればそのまま通常のサーブとして扱われるというネットインが認められるようになった点である。また、この他に直接プレイに関係ない場合のネットタッチでファウルを取られなくなったことや、一度サーブの為にボールを上げたら一度落として再度打ち直すことが禁じられたことで、試合の流れを止めることなくスピーディーにテンポよく行われるようになったと言える。


 そして、ラリーポイントシステム(各プレイごとにサーブ権と共に点も入るラリーポイント制)導入により、以前までのサイドアウト制(サーブ権を持っている時に、さらにスパイクが決まったり相手がミスしてボールを落としたりすると得点となり、サーブ権がない時は決めても単にサーブ権が移動するだけというサイドアウト制)よりも分かりやすくなったことで、初めての人でも楽しめるスポーツとなったのではないだろうか。また、これに伴いセットポイントも15点から25点へと引き上げられサーブ権に関係なくラリーを制して25ポイントを先取した方が勝ちとなったことで、試合時間も短縮されプレイヤーが集中でき能力を発揮できるようになり、観客もまた飽きずに集中でき今まで以上に魅了されるようになったのではないだろうか。魅了されると言えば、リベロシステムにも見られるだろう。リベロプレイヤーは、ローテーションからはフリーで、選手交代の宣言なしで何度でも交代ができ、代わりに入るポジションは決まっていないのでプレイヤーにとっては有効であり、今までより激しいラリーが見られるようになったのではないかと思う。そして、何よりも前衛に出なくてすむので、高身長化の進むバレーボールにおいて低身長プレイヤーの出場の場を広げるという意味もあったと言えるのではないだろうか。


 以上のことから見て、バスケットボールとバレーボールのルール改正における共通点は、試合展開がスピーディーになり魅力的になったことや、能力が十分に発揮できるチャンスが増えたことや、人々が求めるエンターティンメント性に相応しいものとなったことだと思う。また、これらのことから分かるように、見て楽しいものにする為にルール改正が行われているのは、人々がスポーツにエンターティンメント性を求める傾向があるからであり、ルールはプレイヤーの為だけでなく観客のためにもあると言える。しかし、楽しめれば良いという傾向だけでゲームが行われているのならば、現在行われているような迫力あるプレイは見られなくなり、観客もバスケットボールに魅了されることが徐々に無くなってしまい、本来のバスケットボールの魅力が失われてしまうのではないかと思うことから、エンターティンメントに偏り過ぎたルール改正は良いとは思えない。また、ルール改正はバスケットボールをより魅力的なものにする為に必要だが、大きなルール改正はプレイヤーを戸惑わせ、プレイするのにも慣れなければならないので、多くのチームにはまたそれから大変な建て直しが待っていると予想できることから、エンターティンメントをコート内に持ち込み過ぎることは良くないと言えるのではないだろうか。


 そして、バスケットボールの魅力は、プレイする楽しさ、観戦する楽しさ、人それぞれ感じることは様々であるが、その中で私は「1秒の重み」の大切さを大きく、又深く感じる。例えば、残り1秒でスリーポイントシュートを放った選手にディフェンスプレイヤーがファウルを犯した場合ではワンスローが与えられるので、このプレイには4点の価値があり、逆転する可能性も出てくる。これが1秒間の間になされることは十分にあり得ることで、わずか1秒でありながら両チームにとって気を抜くことのできない時間であり、ゲームの緊迫感が感じられ、これにはプレイヤーはもちろんのこと観客も魅了されるだろう。このことから考えると、時間制限の改正はこういった点でバスケットボールの魅力を引き出していると言える。また、時間制限の改正はプレイヤーにとってもエンターティンメント性を求める観客にとってもルールとして上手く作用し、こういったルールが増えることで、バスケットボールをますます魅力的にさせるのではないかと思う。